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福岡高等裁判所那覇支部 昭和47年(ネ)38号 判決 1973年1月24日

控訴人

富島マカト

右訴訟代理人

真喜屋英男

外一名

被控訴人

株式会社沖繩銀行

右代理人支配人

上原康宏

右訴訟代理人

我謝孟栄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一南陽相互銀行が製菓組合に対し被控訴銀行主張のとおりの金員を貸付け、その当時、訴外富島喜信が右債務につき連帯保証をし、同銀行が喜信に対し、連帯保証債権を有していたこと、被控訴銀行が一九七一年一一月八日同銀行を合併し、被控訴銀行において右債権関係を承継したことは当事者間に争いがない。

二しかして、訴外喜信が、一九六四年九月一日ころ、控訴人に対して本件不動産を贈与し、同年同月五日その旨の各所有権移転登記を経由したことは、当事者間に争いがない。

そして、<証拠>によれば、喜信は、右贈与の当時、本件不動産以外に本件債務を完済するに足りるべき資産を有していなかつたことが認められ、この認定に反する証拠はない。

三そこで、控訴人の抗弁について判断する。

1  抗弁(一)について

<証拠>を総合すれば、製菓組合は、一九六三年ころから砂糖を輸入するについて、被控訴銀行を通じてL・Cを開設していたところ、一九六四年七月ころ入荷した砂糖についてのL・C決済資金が不足したため、同月一六日被控訴銀行から手形貸付の方法によつて、四万ドルを借り受けてL・Cの決済をしたこと、組合では、右借受けにあたつて、連帯保証人を立てる必要があつたので、主として組合役員に連帯保証人になつてもらうべく、組合職員の石川英一が貸付関係書類作成の都合もあつて右銀行の係行員を同伴し、組合役員らの家を廻つて連帯保証人になるについての承諾を求めたが、訴外喜信については同人が連帯保証人になることを渋つたところから、石川は同人の承諾をとりつけるため、自分の考えで砂糖が担保だから個人には迷惑をかけないと述べて説得し、結局、喜信も連帯保証人になることを承諾したこと、しかし、右石川に同伴した銀行の行員は、そのことについては何ら触れることがなかつたことをそれぞれ認めることができ、<証拠判断・省略>。

右認定の事実によれば、当時組合としては、L・C決済を早急にしなければならない実情にあつて、組合員らの協力を得る必要に迫られていたところから、その協力を得るため組合の担当職員である石川において、輸入砂糖が担保になつていること、組合の運営にあたる者が責任をもつて事務処理にあたり組合員には迷惑をかけることはしないとして、連帯保証人となつてもらうことの説得の手段として用いたものにすぎず、いまだ、本件連帯保証契約締結の当時、被控訴銀行が、喜信に対し、本件債権について強制執行をしない旨の特約をしたと認めるに足りないものというべきである。

なお、控訴人は、本件債権については、南陽相互銀行を債権者とし、訴外喜信を債務者とする仮執行宣言付支払命令が確定していたのに、右確定後被控訴銀行が、本件不動産に対してなした仮差押ならびに、喜信所有の有体動産に対してなした仮差押をそれぞれ取り下げたのは、前記強制執行をしない旨の特約があつたことによるものである旨主張する。

しかして被控訴銀行が控訴人主張のとおり、本件債権についての支払命令の確定後に、本件不動産に対する仮差押の申請を取り下げ、また有体動産に対する仮差押の執行を解放したことは当事者間に争いがない。しかし、<証拠>によれば、同銀行は、製菓組合に対する前記一説示の貸金の回収を確保すべく、連帯保証人となつた者全員に対して仮差押の執行をするとともに、物上担保の提供を求めていたが、訴外喜信ほか一名を除く者らは銀行の求めに応じて担保の提供をしたので、仮差押の申請を取り下げたこと、しかるに、喜信ほか一名はこれに応じなかつたため、同銀行は、右喜信らに対し前記支払命令を債務名義として強制競売の申立をすることとし、一九六五年七月一六日その申立書を提出したが、その際、喜信に対する前記仮差押の取下申立書をも同時に裁判所に提出したところから、裁判所によつて仮差押の登記が抹消されて(競売開始決定の登記はこれにおくれてなされた。)処分禁止の効力を失い、それ以前になされていた控訴人に対する所有権移転登記の存在のため、訴外喜信に対する強制執行は手続が続行できなくなつたこと、また、同銀行の申立により、一九六五年一月一二日喜信所有の有体動産に対して仮差押の執行がなされたが、組合員である訴外喜久本茂夫らから銀行に対し、担保を提供するよう喜信を説得するから右仮差押の執行を解放されたい旨の要望があつたため、被控訴銀行はこれに応じて解放の手続をするに至つたことがそれぞれ認められ、<証拠判断・省略>右に認定したところによれば、被控訴銀行は訴外喜信に対する仮差押の申請を取り下げたとはいえ、同時に強制競売の申立をして、不執行の特約の存在と全く矛盾する行動に出ているのであるから、右仮差押申請の取下げが不執行の特約を承認した結果であるといえないことは明らかであり、また有体動産に対する仮差押の執行の解放についても右認定の事実関係のもとにおいては、控訴人主張の趣旨に解しえないことは明らかである。

なおまた、証人吉村繁の証言によれば、同銀行において、前記のように、本件不動産に対して強制競売の申立をした際、喜信から銀行に対して「銀行は、財産に迷惑をかけないと言つていたし、月々一五〇ドルずつ支払つているのに、どうしてそのようなことをするのか」と抗議をした事実が認められるが、財産に迷惑をかけないとの趣旨を述べたのが組合職員の石川から述べられたものであつたことは前認定のとおりであり、右の抗議は右証言によつて認められるように、当時、喜信は本件貸金の返済のため被控訴銀行に対して一カ月一五〇ドルずつを弁済していたところから、このことを無視した銀行の態度に対する不満に起因するものであつたと認めるのが相当であり、かかる事実をもつてしては、いまだ控訴人主張の特約を認定するに十分でないというべきである。

2  抗弁(二)について

控訴人は、本件債権に関しては、喜信のほかにも連帯保証人があり、しかも他の連帯保証人所有の不動産に右被控訴銀行の右債権を担保するため抵当権が設定されていて、その担保価値は十分であつたから右贈与によつては債権者たる被控訴銀行が害されることはないと主張する。

しかしながら、連帯保証人は債権者に対して各自全額弁済の義務を負い、債権全額が各保証人の一般財産によつて担保されるものであるから、他に連帯保証人が存在することは詐害行為の成否に消長がなく、また、他の連帯保証人の不動産上に抵当権が設定された場合に、その抵当権が他の連帯保証人の保証債務をも担保するためのものであつたとしても、債権者がこれによつて優先弁済を受けたとき、当該抵当権設定者がその結果他の連帯保証人に対しても求償権を取得することを考慮するときは、本件の場合にも、債権者たる被控訴銀行が抵当権を設定した連帯保証人の不動産上に把握している担保価値は本来連帯保証人の一人である訴外喜信の財産には含まれていないものとみるのが相当であり、したがつて、右のような事実があつたとしてなお、詐害行為の成立を妨げるものではないと解すべきである。

四最後に、控訴人は、本件贈与にあたり被控訴銀行を詐害する意思ないし認識がなかつたものとして詐害行為の成立を争うので判断するに、右贈与の当時喜信には本件不動産以外に本件債務を完済するに足りるみるべき資産のなかつたことは前認定のとおりであり、しかも、<証拠>によれば、右吉村は、本件連帯保証契約の成立後一九六四年八月中に、被控訴銀行(合併前の南陽相互銀行)本店の保全課長として、本件債務の返済方法と担保の提供方について訴外喜信と話し合うため、係員とともに喜信の家を訪ね、本件債権の回収策と保全策を講じていたこと、同銀行はこの目的のため翌九月二日本件不動産に対する仮差押の申請をしてその旨の決定を得、同決定は同月四日喜信に送達されたことが認められるところ、前説示のように喜信から同居の妻である控訴人に対し贈与を原因として本件不動産の所有権移転登記が翌五日になされたという経緯にかんがみれば、喜信が本件贈与をなしかつその旨の所有権移転登記を経由したのは、控訴人が主張するように、喜信において、被控訴銀行との間に前記抗弁(一)、(二)として主張する事情があつて被控訴銀行を害することがないと信じたからではなく、その動機は本件不動産が同銀行の有する債権の引当てとなるのを回避することにあり、被控訴銀行を害すべき認識があつたものと認めるのが相当であり、<証拠判断・省略>。

五右に認定したところによれば、訴外喜信の控訴人に対する本件不動産の贈与は民法四二四条所定の詐害行為にあたるものというべきであるから、右贈与の取消を求めるとともに、控訴人のためにされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める本訴請求は理由があるから、これを認容すべきである。

したがつて、右と同旨にでた原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(吉井直昭 仲本正真 宮城安理)

(別紙)目録《省略》

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